PMV(予想平均温冷感申告)
2020-10-19PMV(Predicted Mean Vote、予想平均温冷感申告)は、人間の感覚量から物理的考察に基づいて温熱快適性を表示したものであり、1967年にデンマーク工科大学のPovl Ole Fanger (July 16, 1934 – September 20, 2006)によって提唱された。人体の定常熱収支式(式[1]参照)と、温冷感や快適感に関する被験者実験結果を基に導出された温熱指標で、PMV=0の時、快適と感じる人の割合が最大になる。温熱環境の設計では、空調対象室の居住域全域でPMVが±0.5の範囲内に収まるように留意する必要がある。
{M}-{W}-{E}_{\textrm{d}}-{E}_{\textrm{sw}}-{E}_{\textrm{res}}-{C}_{\textrm{res}} = {K} = {R}+{C} \; \cdots \; [1]
ここで、M は代謝率 [W/m2]、W は外部仕事 [W/m2]、Ed は皮膚からの不感蒸泄 [W/m2]、Esw は発刊による皮膚からの潜熱損失 [W/m2]、Eres は呼吸による潜熱損失 [W/m2]、Cres は呼吸による顕熱損失 [W/m2]、K は皮膚表面から着衣状態の人体表面への伝熱量 [W/m2]であり、R は人体表面から外部環境への放射熱損失 [W/m2]、C は人体表面から外部環境への対流熱損失 [W/m2]である。
しかし、この式は単なる人体の熱収支式であり、これを待たすだけでは必ずしも快適とはならない。Fangerは被験者実験から得られたデータを基に、快適となる条件として生理学的変数である平均皮膚温tskと、発汗蒸発による放熱量Esw が次の式[2]、式[3]を満たす必要があるとしている。
{t}_{\textrm{sk}} = 35.7 - 0.028({M}-{W}) \; \cdots \; [2]
{E}_{\textrm{sw}} = 0.42({M}-{W}-58.15) \; \cdots \; [3]
式[1]のM とW 以外の項を室温t [°C]、水蒸発分圧pa [kPa]、風速v [m/s]、平均放射温度tmrt [°C]、clo値Icl [clo]、平均皮膚温tsk [°C]などの関数として表し、式[2]、式[3]を用いて平均皮膚温tsk と発汗蒸発による放熱量Esw を消去すると、式[4]の関数形となる快適方程式が得られる。
{f}({M}-{W}, {I}_{\textrm{cl}}, {t}, {t}_{\textrm{mrt}}, {p}_{\textrm{a}}, {v} ) \; \cdots \; [4]
したがって、快適となる温熱環境はこの6変数(人間側2変数(M –W [W/m2]、Icl [clo])、環境側4変数(t [°C]、tmrt [°C]、pa [kPa]、風速v [m/s]))の組み合わせとして無数に存在することになる。
快適条件から外した温熱環境では、快適方程式[4]の右辺が0にならず、ある値QL [W/m2]をとる。FangerはこのQL を人体に対する熱負荷と呼んで、この値が大きいほど不快感が増すと考え、多くの被験者(約1300 人)を使った実験結果を基に、式[5]のようにPMVと関係つけている。
PMV = (0.303e^{-0.036M}+0.028)Q_L \; \cdots \; [5]
この式のQL を具体的に書き表すと式[6]となり、この式を式[5]に入れることでPMVの値を計算することができる。
\begin{aligned} {Q}_{\textrm{L}} = & [({M}-{W}) \\\ & - 3.05 \left \{ 5.73-0.007(M-W)-{p}_{\textrm{w}} ) \right \} \\\ & - 0.42 \left \{(M-W)-{p}_{\textrm{w}}-58.15 ) \right \} \\\ & - 0.0173M(5.87 - {p}_{\textrm{w}}) \\\ & - 0.0014M(34 - {t}) \\\ & - 3.96\times {10}^{-8}{f}_{\textrm{cl}} \left \{ ({t}_{\textrm{cl}}+273)^{4} -({t}_{\textrm{mrt}}+273)^{4} \right \} \\\ & - {f}_{\textrm{cl}} {h}_{\textrm{c}}({t}_{\textrm{cl}}-{t})] \end{aligned} \; \cdots \; [6]
ここで、fcl [-]は着衣状態の体表面積と裸体表面式の割合、tcl [°C]は衣服表面温度、hc [W/m2K]は対流熱伝達率である。
※ ISO規格にはBASICコードも公開されているので、ご参照ください。
ISO 7730, 2005 : Ergonomics of the thermal environment — Analytical determination and interpretation of thermal comfort using calculation of the PMV and PPD indices and local thermal comfort criteria
一方、PMVの測定高さについて1点のみ計測する時は、椅座の人体に対しては床上0.6 mで、立っている人体に対しては1.0 mで測定する。3点測定する時は、椅座の場合、床上0.2, 0.6, 1.0 mで、立っている場合は、0.3, 1.0, 1.7 mの高さでPMVを求め、その平均値をとることをFangerは勧めている。
Reference – Thermal comfort: Analysis and applications in environmental engineering, 1970
[P. O. Fanger (July 16, 1934 – September 20, 2006)]