MRT(平均放射温度)
2022-06-14MRT(平均放射温度、mean radiant temperature)は、人体が表面温度の不均一な周壁に取り囲まれ、壁との間で放射熱をやり取りする時、等価な放射熱を受ける均一な周壁温度を持つ仮想空間の壁面温度1[1] ISO 7726:1998, Ergonomics of the thermal environment – Instruments for measuring physical quantities, 1998. を示すものである。平均放射温度(MRT)を推定する方法は、定義からの方程式を用いて計算する方法と特定温度計又はセンサーによって測定する方法がある。
【1】MRTの計算法
人体からの放射熱伝達は、周壁と交換する熱フラックスの合計であり、平均放射温度(MRT)は周壁温度と人体の位置による角度係数から求められる。建材は一般的に放射率(ɛ)が高くて1と仮定し、角度係数の合計が1になるため、平均放射温度の4乗は、各角度係数を加重する周壁温度の4乗の平均値(式[1]参照)である。また、周壁との間に比較的に温度差が小さい場合では、式[2]に示すように線形の形で簡略化することも可能である。
{\overline{{T}_{r}}^{4}}={{T}_{1}}^{4}F_{\mathrm{p-1}}+{{T}_{2}}^{4}F_{\mathrm{p-2}}+\cdots+{{T}_{N}}^{4}F_{\mathrm{p-N}} \; \cdots [1]
ここに、Tr は放射温度 [K]、TN は表面Nにおける表面温度 [K]、Fp-N は人体と表面Nとの角度係数 [-]である。
{\overline{{T}_{r}}}={{T}_{1}}F_{\mathrm{p-1}}+{{T}_{2}}F_{\mathrm{p-2}}+\cdots+{{T}_{N}}F_{\mathrm{p-N}} \; \cdots [2]
【2】MRTの測定法
平均放射温度は、グローブ温度計を用いて推定することが可能である。一先ず、グローブ温度計と周りの環境との熱交換バランス式を考えると式[3]のように表すことが出来る。
{q_{\mathrm{r}}}+{q_{\mathrm{c}}}=0\; \cdots [3]
ここに、qr はグローブ温度計と囲まれた壁面との放射熱交換 [W/m2]、qc はグローブ温度計と囲まれた空気との対流熱交換 [W/m2]である。
Fig 1. Globe thermometer
式[3]のqr とqc を分けて考えると、グローブ温度計と周りの環境との放射熱交換バランス式は式[4]、対流熱交換バランス式は式[5]のように表すことが可能である。
{q_{\mathrm{r}}}={\varepsilon_{\mathrm{g}}}{\sigma}\left ( {\overline{{T}_{\mathrm{r}}}^{4}}-{{{T}_{\mathrm{g}}}^{4}} \right )\; \cdots [4]
ここに、ɛg はグローブ温度計の放射率 [-]、Tg はグローブ温度 [K]、σ はシュテファン=ボルツマン定数(Stefan–Boltzmann constant)であり、SI単位系で、σ=5.67×10-8 [W/(m2⋅K4)]と与えられる。
{q_{\mathrm{c}}}={h_{\mathrm{cg}}}\left ( {{T}_{\mathrm{a}}}-{{{T}_{\mathrm{g}}}} \right )\; \cdots [5]
ここに、hcg はグローブ温度計の対流熱伝達率 [W/(m2⋅K)]であるが、グローブ温度計の場合は自然対流、強制対流によって下記の式[6]と式[7]で推定可能である。
▶ 自然対流(natural convection)の場合
ここに、ΔT はグローブ温度と周り空気の温度差 [K]、D はグローブ温度計の直径 [m]である。\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} {h_{\mathrm{cg}}}=1.4\left ( \frac{\Delta{T}}{D} \right )^{1/4}\; \cdots [6] \end{aligned}\end{array}
▶ 強制対流(forced convection)の場合
ここに、va はグローブ温度計周りの気流速度 [m/s)]である。\def\arraystretch{1.5}\begin{array}{cc}\begin{aligned} {h_{\mathrm{cg}}}=6.3\frac{v_{\mathrm{a}}^{0.6}}{D^{0.4}}\; \cdots [7] \end{aligned}\end{array}
よって、式[4]と式[5]を式[3]に入れて整理すると、熱バランス式は式[8]のように表現される。
{\varepsilon_{\mathrm{g}}}{\sigma}\left ( {\overline{{T}_{\mathrm{r}}}^{4}}-{{{T}_{\mathrm{g}}}^{4}} \right )+{h_{\mathrm{cg}}}\left ( {{T}_{\mathrm{a}}}-{{{T}_{\mathrm{g}}}} \right )=0\; \cdots [8]
式[8]を平均放射温度に関して整理すると、式[9]が得られる。
{\overline{{T}_{\mathrm{r}}}}=\sqrt[4]{{{{T}_{\mathrm{g}}}^{4}}+\frac{{h_{\mathrm{cg}}}}{\varepsilon_{\mathrm{g}}{\sigma}}\left ( {{T}_{\mathrm{g}}}-{{{T}_{\mathrm{a}}}} \right )}\; \cdots [9]
以上のことより、グローブ温度計を用いて平均放射温度を測定すると、自然対流、強制対流によって下記の式[10]と式[12]で推定可能である。また、グローブ温度計は、直径(D)0.15 m、放射率(ɛ)0.95のものが標準グローブ温度計として一般的に勧奨されるので、標準グローブ温度計を用いた場合は、式[11]と式[13]によって平均放射温度が求められる。
▶ 自然対流(natural convection)の場合
\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} {\overline{{T}_{\mathrm{r}}}}=\left [ { \left ( {T}_{\mathrm{g}}+273.15 \right ) ^{4}+\frac{{0.25 \times 10^8}}{\varepsilon_{\mathrm{g}}}\left ( \frac {\left| {{T}_{\mathrm{g}}}-{{{T}_{\mathrm{a}}}}\right| }{D}\right ) ^{1/4} \times \left ( {{T}_{\mathrm{g}}}-{{{T}_{\mathrm{a}}}}\right ) } \right ]^{1/4}-273.15 \; \cdots [10] \end{aligned}\end{array}
▶ 自然対流状況で標準グローブ計(D=0.15 m、ɛ=0.95)を使用した場合
\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} {\overline{{T}_{\mathrm{r}}}}=\left [ { \left ( {T}_{\mathrm{g}}+273.15 \right ) ^{4}+0.4 \times 10^8 \left| {{T}_{\mathrm{g}}}-{{T}_{\mathrm{a}}}\right|^{1/4} \times \left ( {{T}_{\mathrm{g}}}-{{{T}_{\mathrm{a}}}}\right ) } \right ]^{1/4}-273.15 \; \cdots [11] \end{aligned}\end{array}
▶ 強制対流(forced convection)の場合
\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} {\overline{{T}_{\mathrm{r}}}}=\left [ { \left ( {T}_{\mathrm{g}}+273.15 \right ) ^{4}+\frac{{1.1 \times 10^8 \times v_{\mathrm{a}}^{0.6}}}{\varepsilon_{\mathrm{g}} \times D^{0.4}}\left ({{T}_{\mathrm{g}}}-{{{T}_{\mathrm{a}}}}\right ) } \right ]^{1/4}-273.15 \; \cdots [12] \end{aligned}\end{array}
▶ 強制対流状況で標準グローブ計(D=0.15 m、ɛ=0.95)を使用した場合
\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} {\overline{{T}_{\mathrm{r}}}}=\left [ { \left ( {T}_{\mathrm{g}}+273.15 \right ) ^{4}+2.5 \times 10^8 \times v_{\mathrm{a}}^{0.6} \left ( {{T}_{\mathrm{g}}}-{{{T}_{\mathrm{a}}}}\right ) } \right ]^{1/4}-273.15 \; \cdots [13] \end{aligned}\end{array}
[1] ISO 7726:1998, Ergonomics of the thermal environment – Instruments for measuring physical quantities, 1998.
Written by Sihwan Lee
[Associate Professor, Nagoya University]