空間全体の平均空気齢
2022-02-16空間全体の平均空気齢はどうやって求められるのか?と言う単純な質問に対する回答をご紹介したいと思います。空気齢の測定法は、① パルス(pulse)法、② ステップアップ(step-up)法、③ ステップダウン(step-down)法に分けられており、それぞれの測定法から測定される局所平均空気齢 τpは、式[1]~[3]によって求められる。
【1】パルス(pulse)法
\overline{\tau_{\mathrm{p}}} = \frac{\int_{0}^{\infty }t\cdot C_{\mathrm{p}}(t)dt}{\int_{0}^{\infty }C_{\mathrm{p}}(t)dt} \; \cdots \; [1]
ここで、τP [s]は局所平均空気齢、t [s]は時間、Cp(t ) [m3/m3]は時間 t の点 P でのトレーサー濃度である。
【2】ステップアップ(step-up)法
\overline{\tau_{\mathrm{p}}} = \int_{0}^{\infty }\frac{C_{\mathrm{s}}-C_{\mathrm{p, up}}(t)}{C_{\mathrm{s}}}dt \; \cdots \; [2]
ここで、Cs [m3/m3]は給気口からのトレーサー濃度、Cp,up(t ) [m3/m3]はステップアップ(step-up)法における時間 t の点 P でのトレーサー濃度である。
【3】ステップダウン(step-down)法
\overline{\tau_{\mathrm{p}}} = \int_{0}^{\infty }\frac{t\cdot C_{\mathrm{p, dn}}(t)}{C(0)}dt \; \cdots \; [3]
ここで、Cp,dn(t ) [m3/m3]はステップダウン(step-down)法における時間 t の点 P でのトレーサー濃度、C (0) [m3/m3]は室内のトレーサー初期濃度である。
それでは、空間全体の平均空気齢<τ>は、どうやって求めるのか?
※ 事前準備:公式の作成
一定濃度のトレーサーガス供給を行う室空間の空間平均濃度の時系列変化は、式[4]が成立し、式[5]としても表すことができる。
V\frac{d \left< C\right>}{dt} = C_{\mathrm{s}}Q-C_{\mathrm{e}}(t)Q \; \cdots \; [4]
ここで、V [m3]は室容積、t [s]は時間、<C > [m3/m3]は室平均トレーサー濃度、Cs [m3/m3]は給気口からのトレーサー濃度、Ce(t ) [m3/m3]は時間 t の排気口でのトレーサー濃度、Q [m3/s]は給気流量である。
\int_{0}^{\infty }t^{n+1}\cdot \frac{d \left< C\right>}{dt}dt = \frac{Q}{V}\int_{0}^{\infty }t^{n+1}\cdot \left ( C_{\mathrm{s}}-C_{\mathrm{e}}(t) \right )dt \; \cdots \; [5]
▶ 部分積分(Integration by parts)
よって、\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} \left ( t^{n+1} \cdot F \right )' = \left ( n+1 \right )t^{n} \cdot F + t^{n+1} \cdot \frac{dF}{dt} \end{aligned}\end{array}
\def\arraystretch{1.5}\begin{array}{cc}\begin{aligned} \int_{0}^{\infty} t^{n+1} \cdot \frac{dF}{dt}dt &= \left [t^{n+1}\cdot F \right ]_{0}^{\infty } -(n+1)\int_{0}^{\infty} t^{n} \cdot F dt \\\ &= F_{\infty}(n+1)\int_{0}^{\infty}t^{n}dt -(n+1)\int_{0}^{\infty} t^{n} \cdot F dt \\\ &= (n+1)\int_{0}^{\infty}t^{n} \cdot \left (F_{\infty} - F \right )dt \end{aligned}\end{array}
上記の部分積分の概念に扱った Fを<C>に置き換えて整理すると、式[6]が得られる。
\int_{0}^{\infty} t^{n+1} \cdot \frac{d \left< C \right>}{dt}dt = (n+1)\int_{0}^{\infty }t^{n} \cdot \left ( \left< C_{\mathrm{\infty}} \right>- \left< C \right> \right )dt \; \cdots \; [6]
よって、式[5]と式[6]から、式[7]のように整理することも可能である。
(n+1)\int_{0}^{\infty }t^{n} \cdot \left ( \left< C_{\mathrm{\infty}} \right>- \left< C \right> \right )dt = \frac{Q}{V}\int_{0}^{\infty }t^{n+1}\cdot \left ( C_{\mathrm{s}}-C_{\mathrm{e}}(t) \right )dt \; \cdots \; [7]
【1】パルス(pulse)法
パルス(pulse)法の場合、給気口に短時間トレーサーガスを注入することで、Cs = 0、C∞ = 0 である。また、n = 1としておいて式[7]を整理すると、式[8]が得られる。
\int_{0}^{\infty} t \cdot \left< C \right> dt = \frac{Q}{2V}\int_{0}^{\infty }t^{2} \cdot C_{\mathrm{e}}(t) dt \; \cdots \; [8]
よって、室内空間全体の平均空気齢は、式[9]で求められる。この式は、排気口のトレーサー濃度のみ測定することで、室内空間全体の平均空気齢が確認できることを意味する。
\left< \bar{\tau} \right> = \frac{Q}{2V} \cdot \frac{\int_{0}^{\infty }t^{2}\cdot C_{\mathrm{e}}(t)dt}{\int_{0}^{\infty }C_{\mathrm{e}}(t)dt} \; \cdots \; [9]
【2】ステップアップ(step-up)法
ステップアップ(step-up)法の場合、給気口に一定のトレーサーガスを注入することで、Cs = C∞ である。また、n = 0としておいて式[7]を整理すると、式[10]が得られる。
\int_{0}^{\infty} \left ( C_{s} - \left< C \right> \right ) dt = \frac{Q}{V}\int_{0}^{\infty }t \cdot \left ( C_{s} - C_{\mathrm{e}}(t) \right ) dt \; \cdots \; [10]
よって、室内空間全体の平均空気齢は、式[11]で求められる。この式も、排気口のトレーサー濃度のみ測定することで、室内空間全体の平均空気齢が確認できることを意味する。
\left< \bar{\tau} \right> = \int_{0}^{\infty }\frac{C_{\mathrm{s}}-\left< C \right>}{C_{\mathrm{s}}}dt = \frac{Q}{V} \int_{0}^{\infty } t \cdot \frac{C_{\mathrm{s}}-C_{\mathrm{e}}(t)}{C_{\mathrm{s}}}dt \; \cdots \; [11]
【3】ステップダウン(step-down)法
ステップダウン(step-down)法の場合、給気口にトレーサーガスを注入しないことで、Cs = 0、C∞ = 0 である。また、n = 0としておいて式[7]を整理すると、式[12]が得られる。
\int_{0}^{\infty} \left< C \right> dt = \frac{Q}{V}\int_{0}^{\infty }t \cdot C_{\mathrm{e}}(t) dt \; \cdots \; [12]
よって、室内空間全体の平均空気齢は、式[13]で求められる。この式も、排気口のトレーサー濃度のみ測定することで、室内空間全体の平均空気齢が確認できることを意味する。
\left< \bar{\tau} \right> = \int_{0}^{\infty }\frac{\left< C \right>}{C(0)}dt = \frac{Q}{V} \int_{0}^{\infty } t \cdot \frac{C_{\mathrm{e}}(t)}{C(0)}dt \; \cdots \; [13]
以上のことを全て整理すると、表1のように纏めることができる。
表 1. 各種方法における空気齢の算出式
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ここで、t [s]は時間、Cp(t ) [m3/m3]は時間 t の点 P でのトレーサー濃度、Cs [m3/m3]は給気口からのトレーサー濃度、Cp,up(t ) [m3/m3]はステップアップ(step-up)法における時間 t の点 P でのトレーサー濃度、Cp,dn(t ) [m3/m3]はステップダウン(step-down)法における時間 t の点 P でのトレーサー濃度、C (0) [m3/m3]は室内のトレーサー初期濃度、Ce(t ) [m3/m3]は時間 t の排気口でのトレーサー濃度、V [m3]は室容積、Q [m3/s]は給気流量である。
Written by Sihwan Lee
[Associate Professor, Nagoya University]