人体からの熱伝達
2020-07-06体内で発生した代謝熱は、顕熱として対流と放射によって、そして潜熱として蒸発により、皮膚と肺を介して周囲環境へ放散される。潜熱は、体の熱を吸収して水分が肺や皮膚で蒸発する際の水の気化熱を表しており、冷たい表面で水分が凝縮すると、潜熱が放出される。吸入した空気の加温は顕熱の伝達を表し、肺で吸入された空気の温度上昇に比例する。体から熱損失の合計率は下記の式で表せられる。
[Mechanisms of heat loss from the human body]
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{body, total}} &= \dot{Q}_{\textrm{skin}}+\dot{Q}_{\textrm{lungs}} \\\ &= (\dot{Q}_{\textrm{sensible}}+\dot{Q}_{\textrm{latent}})_{\textrm{skin}}+(\dot{Q}_{\textrm{sensible}}+\dot{Q}_{\textrm{latent}})_{\textrm{lungs}} \\\ &= (\dot{Q}_{\textrm{conv}}+\dot{Q}_{\textrm{rad}}+\dot{Q}_{\textrm{latent}})_{\textrm{skin}}+(\dot{Q}_{\textrm{conv}}+\dot{Q}_{\textrm{latent}})_{\textrm{lungs}} \end{aligned}
したがって、解析のみによる体からの熱伝達を決定するのは困難である。衣服は体からの熱伝達をさらに複雑にするため、実験データに頼らなければならない。定常状態における体からの総熱伝達率は変化する代謝熱発生率に等しく、軽い事務作業で約100 Wから重い肉体労働で約1000 Wまで変化する。
皮膚からの顕熱損失は、皮膚温度、環境、周囲の表面、および空気の流れに依存する。一方、潜熱損失は、皮膚の湿り度と環境の相対湿度に依存する。衣類は断熱材として機能し、顕熱損失と顕熱損失の両方を軽減させる。肺から呼吸までの熱伝達は呼吸頻度と肺の容積のみながず、皮膚からの熱伝達に影響を与える環境要因により異なる。
衣服を着た皮膚からの顕熱は、最初に衣服に伝わり、次に衣服から環境に伝わる。服を着た外面からの対流と輻射の熱損失は下記の式で表せられる。
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{conv}} &= {h}_{\textrm{conv}}{A}_{\textrm{clothing}}({T}_{\textrm{clothing}}+{T}_{\textrm{ambient}}) \\\ \dot{Q}_{\textrm{rad}} &= {h}_{\textrm{rad}}{A}_{\textrm{clothing}}({T}_{\textrm{clothing}}+{T}_{\textrm{surr}}) \end{aligned}
また、人の周囲のさまざまな表面の温度は異なり、Tsurrは平均放射温度を表しす。平均放射温度は、人体との放射熱交換と放射熱交換が等しくなる仮想温度である。ほとんどの衣類や建築材料は黒体であり、異なる温度のN面で構成されるエンクロージャーの平均放射温度は次式で求められる。
\begin{aligned} T_{\textrm{surr}} \cong {F}_{\textrm{person-1}}{T}_{\textrm{1}}+{F}_{\textrm{person-2}}{T}_{\textrm{2}}+\cdots +{F}_{\textrm{person-}N}{T}_{N} \end{aligned}
ここで、Ti は表面iの温度であり、Fperson-i は人体と表面の間の形態係数(view factor)である。
総顕熱損失は、対流と放射熱損失を次式のように組み合わせることによって便利に表すことができる。
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{conv+rad}} &= {h}_{\textrm{combined}}{A}_{\textrm{clothing}}({T}_{\textrm{clothing}}+{T}_{\textrm{operative}}) \\\ &= ({h}_{\textrm{conv}}+{h}_{\textrm{rad}}){A}_{\textrm{clothing}}({T}_{\textrm{clothing}}+{T}_{\textrm{operative}}) \end{aligned}
ここで、作用温度(operative temperature)Toperative は対流と放射熱伝達を考慮して決定した周囲温度と平均放射温度の平均値であり、次式で求められる。
\begin{aligned} T_{\textrm{operative}} &= \frac{{h}_{\textrm{conv}}{T}_{\textrm{ambient}}+{h}_{\textrm{rad}}{T}_{\textrm{surr}}}{{h}_{\textrm{conv}}+{h}_{\textrm{rad}}} \cong \frac{{T}_{\textrm{ambient}}+{T}_{\textrm{surr}}}{2} \end{aligned}
作用温度は、対流と放射熱伝達係数が等しい場合の周囲温度と周囲の表面温度の算術平均値である。また、熱快適性分析で使用される別の環境指標は、温度と湿度の影響を組み合わせた有効温度である。同じ有効温度の2つの環境は、温度と湿度が異なっていても、人の熱反応は同じくなる。
衣服の熱伝達は次式を用いて求められる。
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{conv+rad}} &= \frac{{A}_{\textrm{clothing}}({T}_{\textrm{skin}}+{T}_{\textrm{clothing}})}{{R}_{\textrm{clothing}}} \end{aligned}
ここで、Rclothing は(m2・K)/Wで表した衣服の単位熱抵抗であり、皮膚と衣服の外表面との間の伝導、対流、および放射の複合効果を含む。衣類の熱抵抗は通常、cloの単位で表され、1 clo = 0.155 (m2・K)/Wである。ズボン、長袖シャツ、長袖セーター、およびTシャツの熱抵抗は、1.0 clo、または0.155 (m2・K)/Wである。薄手のスラックスや半袖シャツなどの夏の服の断熱値は0.5 cloであるが、厚手のスラックス、長袖シャツ、セーターやジャケットなどの冬の服の断熱値は0.9 cloとなる。
そうすると総顕熱損失は、不便な衣服温度ではなく、次式のように皮膚温度で表すことができる。
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{conv+rad}} &= \frac{{A}_{\textrm{clothing}}({T}_{\textrm{skin}}+{T}_{\textrm{operative}})}{{R}_{\textrm{clothing}}+\cfrac{1}{{h}_{\textrm{combined}}}} \end{aligned}
熱的快適状態では、体の平均皮膚温度は33 °Cであると観察されており、皮膚温度が±1.5 °C程度変動しても不快感はない。これは、体が服を着ているか、服を脱いでいるかにも関係ない。
皮膚からの蒸発熱または潜熱の損失は、皮膚と周囲空気の水蒸気圧、皮膚の湿り度との差に比例する。これは、汗の蒸発と皮膚を通る水拡散の複合効果によるもので、次式のように表すことができる。
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{latent}} &= \dot{\mu}_{\textrm{vapor}}{h}_{fg} \end{aligned}
蒸発による熱損失は、皮膚が完全に濡れているときに最大となる。また、衣服は蒸発に対して抵抗力を持ち、衣服の体内での蒸発速度は衣服の透湿性に依存する。平均的な男性の最大蒸発速度は約1 L/h (0.3 g/s)であり、蒸発冷却速度の上限は730 Wである。暑い日のトレーニング中に1時間あたり2 kgの水を失う可能性があり、余分な汗は蒸発せずに皮膚表面から滑り落ちる。
呼吸中、吸い込まれた空気は周囲条件で入り、吐き出される空気は深部体温に近い温度でほぼ飽和状態のままとなる。したがって、体は対流による顕熱と肺からの蒸発による潜熱の両方を失う。これらは次式のように表すことができる。
[Metabolic heat generated in the body]
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{conv, lungs}} &= {\dot{m}}_{\textrm{air, lungs}}{c}_{p \textrm{, air}}({T}_{\textrm{exhale}}+{T}_{\textrm{ambient}}) \\\ \dot{Q}_{\textrm{latent, lungs}} &= {\dot{m}}_{\textrm{vapor, lungs}}{h}_{fg} = {\dot{m}}_{\textrm{air, lungs}}({\omega}_{\textrm{exhale}}+{\omega}_{\textrm{ambient}}){h}_{fg} \end{aligned}
肺への空気摂取率は、代謝率に正比例する。呼吸による肺からの総熱損失率は、おおよそ次式のように表すことができる。
\begin{aligned} \dot{Q}_{\textrm{conv+latent, lungs}} &= 0.0014{\dot{Q}}_{\textrm{met}}(34-{T}_{\textrm{ambient}}) \\\ & \; \; \; + 0.0173 {\dot{Q}}_{\textrm{met}}(5.87-{P}_{v \textrm{, ambient}}) \end{aligned}
ここで、Pv, ambientはkPaで表す蒸気圧である。
顕熱の割合は、重労働で約40%から軽作業で約70%まで変化する。残りのエネルギーは、潜熱の形で発汗することにより体から排出される。
Written by Yunus A. Çengel
[Professor, University of Nevada]