建築熱・空気環境 1【CT#03】
2025-06-25▶ シックハウス対策
1. シックハウスの原因物質は【 揮発性有機化合物(VOCs) 】であるとされ、その代表はホルムアルデヒドである。
2. 有機リン酸農薬は沸点による分類では【 半揮発性有機化合物(SVOC) 】となる。
※ シックハウスの原因物質は、揮発性有機化合物(VOCs : Volatile Organic Compounds)であるとされ、その代表はホルムアルデヒド(Formaldehyde : HCHO)である。WHO (World Health Organization)では室内空気汚染の観点から揮発性有機化合物の沸点をもとに以下のように分類定義されている。
・高揮発性有機化合物(VVOC : Very Volatile Organic Compounds):沸点@0~50度(ホルムアルデヒド等)
・揮発性有機化合物(VOC : Volatile Organic Compounds):沸点@50~260度(トルエン、キシレン等)
・半揮発性有機化合物(SVOC : Semi Volatile Organic Compounds):沸点@260~400度(有機リン酸農薬等)
・粒子状有機化合物(POM : Particulate Organic Matter):沸点@380度~(PCB、ベンゾピレン等)
3. 厚生労働省濃度指針値におけるホルムアルデヒド濃度は【 0.1 】mg/m3である。
※ 厚生労働省 (https://www.mhlw.go.jp)では、室内空気中化学物質(揮発性有機化合物)の室内濃度指針値を下記のように設定している。ここに示した指針値は、現状において入手可能な科学的知見に基づき、人がその化学物質の示された濃度以下の曝露を一生涯受けたとしても、健康への有害な影響を受けないであろうとの判断により設定された値である。
揮発性有機化合物 毒性指標 室内濃度指針値 ホルムアルデヒド ヒト吸入曝露における鼻咽頭粘膜への刺激 100 μg/m3 (0.08 ppm) アセトアルデヒド ラットの経気道曝露における鼻咽頭嗅覚上皮への影響 48 μg/m3 (0.03 ppm) トルエン ヒト吸入曝露における神経行動機能及び生殖発生への影響 260 μg/m3 (0.07 ppm) キシレン ヒトにおける長期間職業曝露による中枢神経系への影響 200 μg/m3 (0.05 ppm) エチルベンゼン マウス及びラット吸入曝露における肝臓及び腎臓への影響 3,800 μg/m3 (0.88 ppm) スチレン ラット吸入曝露における脳や肝臓への影響 220 μg/m3 (0.05 ppm) パラジクロロベンゼン ビーグル犬経口曝露における肝臓及び腎臓等への影響 240 μg/m3 (0.04 ppm) テトラデカン C8―C16混合物のラット経口曝露における肝臓への影響 330 μg/m3 (0.04 ppm) クロルピリホス 母ラット経口曝露における新生児の神経発達への影響及び新生児脳への形態学的影響 1 μg/m3 (0.07 ppb)
小児の場合 0.1 μg/m3 (0.007 ppb)フェノブカルブ ラットの経口曝露におけるコリンエステラーゼ活性などへの影響 33 μg/m3 (3.80 ppb) ダイアジノン ラット吸入曝露における血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性への影響 0.29 μg/m3 (0.02 ppb) フタル酸ジ―n―ブチル ラットの生殖・発生毒性についての影響 17 μg/m3 (1.50 ppb) フタル酸ジ―2―エチルヘキシル ラットの雄生殖器系への影響 100 μg/m3 (6.30 ppb) 総揮発性有機化合物量 (TVOC) 国内の室内VOC実態調査の結果から、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定 400 μg/m3
4. JIS/JASにおける建材のホルムアルデヒド発散速度の上限は、F☆☆☆建材では【 0.02 】mg/(m2·h)であり、F☆☆☆建材では【 0.005 】mg/(m2·h)である。
※ ホルムアルデヒドを発散する恐れのある建築材料は、発散量に関する等級区分により、使用面積の制限等がなされている。規制対象の建築材料のうち、発散量に関する等級区分(JISやJASに基づくF☆☆☆☆等の表示)がないものは、個別に大臣認定を受ける必要がある。
JIS・JAS ホルムアルデヒド発散速度 建築基準法の取り扱い なし 0.12 mg/(m2·h) 超 使用禁止 F☆☆ 0.02 ~ 0.12 mg/(m2·h) 使用面積制限 F☆☆☆ 0.005 ~ 0.02 mg/(m2·h) 使用面積制限 F☆☆☆☆ 0.005 mg/(m2·h) 以下 無制限使用可
5. 建築基準法シックハウス対策の規制物質は、ホルムアルデヒドと【 クロルピリホス 】である。
※ 建築基準法に基づくシックハウス対策では、シックハウス対策の規制を受ける化学物質としてクロルピリホス(C9H11Cl3NO3PS)とホルムアルデヒド(HCHO)の2物質が該当すると規定されている。
6. 建築基準法シックハウス対策は【 内装仕上げ 】、【 換気設備 】、天井裏などへの対策からなる。
※ 建築基準法シックハウス「対策 I」@「内装仕上げへの対策」は、下記項目がある。
・住宅等の居室:F☆☆☆は2Aまで、F☆☆☆☆は制限なし
・住宅等の居室以外の居室:F☆☆☆は2Aまで、F☆☆☆☆は制限なし
7. 住宅等の居室の必要換気回数は【 0.5 】回/hである。
※ 建築基準法シックハウス「対策 II」@「換気設備への対策」は、下記項目がある。
・住宅等の居室:N=0.5回/hの24時間機械換気システムを設置
・住宅等の居室以外の居室:N=0.3回/hの24時間機械換気システムを設置
8. 天井裏などの対策を建材で行う場合【 F☆☆☆ 】以上の建材を用いることが求められる。
※ 建築基準法シックハウス「対策 III」@「天井裏などへの対策」は、下記項目がある。
・建材で対応する場合「F☆☆☆」ないし「F☆☆☆☆」
・気密層、通気止めによる対策
・天井裏などを換気
9. 欧米で大きな社会問題となったシックビル問題が日本で顕在化しなかったのは、オイルショックに対して【 汚染指標の二酸化炭素濃度(1,000 ppm) 】を変更しなかったことによる。
※ 欧米の規格(ANSI/ASHRAE Standard 62.1-2019、ANSI/ASHRAE Standard 62.2-2019)に定められた一人当たり適正換気量の変化は面白く、産業の設計トレンドによって変化されて来ている。一方、日本における換気規格は、社団法人空気調和・衛生工学会が規格化したもの(SHASE-S 102-2011)がある。
10. レジオネラ属菌対策としては、冷却塔では【 短期間での換水、定期的清掃 】、給湯システムでは給湯温度を【 60 ºC 以下 】としないことが重要である。
※ レジオネラ属菌は空調用冷却塔水、24時間風呂などの循環式浴槽あるいは給湯系の貯湯槽などで繁殖する。したがって、短期間での換水や定期的清掃、レジオネラが繁殖できない温度(60 ºC以上)の維持、塩素系薬剤による消毒処理などが必要である。
11. 0.5 回/h換気を行っている天井高2.3 mの室のホルムアルデヒド濃度を濃度指針値に保つことのできるF☆☆☆☆建材の施工可能面積は床面積の何倍か?但し、室には床面積の三倍のF☆☆☆建材を用いた家具があるとする。
→ F☆☆☆☆建材は建築基準法の取り扱いとして、無制限使用可である。
※ F☆☆☆☆建材の発生量上限値を0.005 [mg/h]として理論的に求めて見ると、以下のように計算される。
・床面積:A [m²]
・室容積:V = 2.3A [m³]
・換気量:Q = NV = 0.5×2.3A [m³/h]
・外気濃度:C₀ = 0 [mg/m³]
・F☆☆☆建材の発生量:M = 0.02×3A [mg/h]
・床面積にたいするF☆☆☆☆建材の倍数:n [倍]
\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} CQ = C_{0}Q + M \end{aligned}\end{array}\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} 0.1 \times 0.5 \times 2.3A = (0.02\times 3 + 0.005n)A \end{aligned}\end{array}\def\arraystretch{1.0}\begin{array}{cc}\begin{aligned} \therefore \; n=11 \;[\textrm{倍}] \end{aligned}\end{array}
Written by Sihwan Lee
[Associate Professor, Tokyo University of Science]